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千葉地方裁判所 昭和44年(ワ)421号 判決

原告

野田明俊

ほか二名

被告

浦安小型運送有限会社

ほか一名

主文

被告らは各自原告野田明俊に対し五〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四三年三月五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告野田明俊のその余の請求および原告野田英二郎同野田孝子の各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、申立て

(原告ら)

被告らは連帯して原告野田明俊および原告野田孝子に対し各五〇〇、〇〇〇円およびそれぞれの金員に対するいずれも昭和四三年三月五日から各支払いずみまで年五分の割合による金員、原告野田英二郎に対し一、一六七、〇〇〇円およびうち九四七、〇〇〇円に対する同日から支払いずみまで年五分の割合の金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

(被告ら)

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、請求の原因

一、(事故の発生)

原告野田明俊(以下原告明俊という)は、次の交通事故により傷害を受けた。

(一)  発生日時 昭和四三年三月五日午後四時五〇分頃。

(二)  場所 (1) 船橋市浜町四番地先道路。

(2) 道路名称、船橋市道ヘルスセンター湊町線(舗装)。

(三)  事故車 普通貨物自動車千四あ三六一三号(以下被告車という)。

(四)  運転者 被告浅沼健次(以下被告浅沼という。進行方向ヘルスセンター方面から湊町方面へ)。

(五)  被害者の事情 (1) 横断歩行(進行方向運河側(西)から反対方向(東)へ)。

(2) 同原告は、当時九才。

(六)  事故の態様 (1) 事故区分、後車輪接触、転倒、轢過。

(2) その具体的内容、同原告は友人二人と道路を横断しようとして、予め左右の安全を確かめて、その際つむじ風が吹いていたので顔をおおうようにして、最初に渡り始めたところ、突然被告車が進行して来て、道路中央辺で、接触した。

(七)  受けた傷害の内容 右膝、下腿、左足関節強迫による傷害。

二、 (帰責事由)

1  被告浦安小型運送有限会社(以下被告会社という)は、被告車を保有し、事故当時これを自己のため運行の用に供していた。

2  被告浅沼は、前方不注視の過失によつて、本件事故を惹起した。

三、 (損害)

原告野田英二郎(以下原告英二郎という)、同野田孝子(以下原告孝子という)は、原告明俊の父母であり、原告らは、本件事故により、それぞれ、次のとおりの損害を蒙つた。

1  (原告英二郎)整形外科治療費 (四四七、〇〇〇円)

原告明俊の傷痕は、二、三年後植皮等の整形手術を要するが、原告英二郎の負担すべき右手術費用の見積りの内訳は、次のとおりである。

イ、第一回、全身麻酔および手術料 一〇〇、〇〇〇円

投薬、諸検査その他 五〇、〇〇〇円

ロ、第二回、第一回に同じ 一五〇、〇〇〇円

ハ、入院費一日四、〇〇〇円三週間 八四、〇〇〇円

ニ、付添その他雑費一日三、〇〇〇円三週間六三、〇〇〇円

2  (原告三名) 慰藉料 (各五〇〇、〇〇〇円)

原告らは、本件事故による原告明俊の受傷とその結果の無惨な瘢痕により精神的苦痛を蒙つたが、これを慰藉するものとしては、各五〇〇、〇〇〇円を相当とする。

3  (原告英二郎) 弁護士費用 (二二〇、〇〇〇円)

イ、手数料 五〇、〇〇〇円

ロ、謝金 一七〇、〇〇〇円

四、よつて原告らは、被告らが連帯して原告明俊および同孝子に対し各五〇〇、〇〇〇円およびそれぞれの金員に対するいずれも昭和四三年三月五日から各支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告英二郎に対し一、一六七、〇〇〇円およびうち弁護士費用を除く九四七、〇〇〇円に対する右同様の遅延損害金の支払いを求める。

第三、答弁

一、請求原因一のうち(一)ないし(五)、(六)の(1)、(七)の各事実を認める。

同(六)の(2)のうち原告明俊が道路を横断しようとして予め左右の安全を確かめたこと、およびその際つむじ風が吹いたので顔をおおうようにして最初に渡り始めたことは不知、その余の事実を認める。

二、請求原因二の事実中、1を認め、2を否認する。

三、同三の事実をすべて争う。

第四、被告らの主張

一、被告会社の免責

1  被告会社および被告浅沼は、自動車の運行に関し注意を怠らなかつた。

(イ)、被告浅沼は、時速約四〇粁で被告車を運転していた。

(ロ)、同被告は、左前方約四〇米の歩道上に子供が遊んでいるのを発見したが、同歩道の幅員は約二・五米あり特に危険を感じなかつたけれども、万一の事態を考え、アクセルペタルから足をはずして約三二粁に減速し、非常の際にいつでもハンドルを右に切ることのできる状態で進行した。

(ハ)、同被告は、原告明俊が飛び出してくるのを八・八米前で発見し、直ちにハンドルを右に切つた。

(ニ)、被告会社は、同被告の運転に関し十分な指揮監督を行なつている。

2  原告明俊に過失があつた。

(イ)、同原告は、被告車の直前(八・八米)に、突然、後向きで飛び出し、自ら被告車にぶつかつて来た。

(ロ)、同原告がぶつかつたのは、被告車左側後部である。

3  被告車には、本件事故と因果関係のある構造上の欠陥または機能の障害がなかつた。

二、被告会社は、原告らに対し、治療に必要な費用として、次のとおり計八〇〇、八九〇円を支払つた。

1  渡辺病院に四〇一、八二四円

2  甲州温泉病院に二二八、〇二〇円

3  右往復交通費および保証金 五〇、〇〇〇円

4  渡辺病院入院雑費等 一二一、〇四六円(被告会社は、原告英二郎の勤務先であつた朝日信用組合に普通預金口座を設けて常時一定額の預金を保ち、原告らが付添婦に対する支払い、諸雑費の支払いに直ちに充当できるよう配慮したが、原告らは、ここから計一二一、〇四六円をひきだして使用した。)

第五、被告らの主張に対する原告らの認否

一、被告らの主張一のうち1の(イ)ないし(ハ)、2の(イ)、(ロ)、3の各事実を否認する。同一のうち1の(ニ)は不知。

二、被告らの主張二を争う。

第六、証拠〔略〕

理由

一、(事故の発生)請求原因一のうち(一)ないし(五)、(六)の1、(七)の各事実および原告明俊が友人二人とともにいたこと、同原告が横断中道路中央辺で被告車と接触したことは、当事者間に争いがない。

二、(帰責事由)

1  請求原因二の1の事実は、当事者間に争いがない。

2  〔証拠略〕によると、本件道路の幅員は八米あり、事故当時被告車の外に交通はなかつたこと、同被告は、衝突地点の約四〇米手前で進行方向前方衝突地点付近左側の歩道に子供がいることを発見し、アクセルをはなしてエンジンブレーキにより減速したが、右に寄ることなく、車道左側端から約二・五米離れたところ(衝突地点の八・八米手前においても左側端から被告車までは約二米あいていたのみである)を左側縁石線に沿つて直進し、衝突地点の八・八米手前に来たとき、原告明俊が歩道から進路右側へ向つて飛び出し横断し始めたのを発見したが、急制動をかけず、すぐにはハンドルを切らず、衝突寸前においてハンドルを右に切つたため、被告車前部を同原告に衝突させることは回避できたけれども、被告車後部左側が同原告に衝突してしまつたものであること、同被告は衝突地点で急制動し、被告車は衝突地点から右折していることが認められ、右認定に反する同被告の供述部分は、その余の供述に照らして措信できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

そうだとすると、同被告は、少くとも衝突地点の八・八米手前で原告明俊の飛び出しを発見したとき、直ちに右にハンドルを切り避譲すべき注意義務があつたのに、これを怠つた過失があることになる。

三、(免責の抗弁)

右のとおり被告浅沼に過失がある以上、免責の抗弁は採用できない。

四、(過失相殺)

〔証拠略〕によると、同原告は、二人の友人と歩道で遊んでいて、本件道路を運河側(西)から反対側(東)に渡ろうとした際、左右の安全を確認せず、目をこすりながら下向きで走つて、少し斜めに横断し始めたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。そして前認定の事実によると、同原告が横断を開始したとき、被告車は、その右方八・八米の距離に迫つて来ていたことになる。

そうだとすると、原告側には重大な過失があつたということができ、その過失割合は九割と認めるのが相当である。

五、(損害)

1  整形手術費

(イ)、〔証拠略〕によると、次の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

原告明俊は、本件受傷の結果、右下肢には、膝関節から下腿下部にかけ広範な瘢痕、左下肢には、足関節前方中心一四×二・四糎大の縦の瘢痕が残つていて、その醜状は、整形手術により、完全には元に戻らないけれども、或程度は改善され、その整形手術には、相当の時間がかかるので右足と左足との二回に分けてしなければならず、これに要する費用としては、一回につき全身麻酔を含めて手術料一〇〇、〇〇〇円。入院費用少くとも一日二、〇〇〇円三週間計四二、〇〇〇円。投薬諸検査その他約五〇、〇〇〇円。合計約一九二、〇〇〇円が見込まれる。

(ロ)、付添いを要することを認めるに足る証拠はない。

(ハ)、しかし入院中一日につき雑費三〇〇円を要することは経験則上肯認できるから、三週間については、六、三〇〇円となる。

(ニ)、以上合計一九八、三〇〇円の二回分すなわち三九六、六〇〇円は少くとも整形手術に要する費用として見込まれる。

2  慰藉料

イ、原告明俊

〔証拠略〕によると、原告明俊が前記の受傷および瘢痕のため精神的苦痛を受けたことを認めることが前認定の同原告の過失その他本件にあらわれた一切の事情を斟酌すると、これを慰藉するものとしては五〇、〇〇〇円を相当と認める。

ロ、原告英二郎、同孝子

〔証拠略〕によると、同原告ら両名が原告明俊の父母であること、同原告の受傷により或程度の精神的苦痛を受けたことが認められるけれども、原告明俊が生命を害されたときにも比肩すべきほどの精神上の苦痛を受けたということは、本件全証拠によつても、認めることができないから、右原告両名が自己の権利として慰藉料を請求することはできない。

六、1 〔証拠略〕によると、被告らの主張二の事実を認めることができる。

そうすると、本件事故による原告明俊の受傷の治療等のために右八〇〇、八九〇円および五の1の三九六、六〇〇円の合計一、一九七、四九〇円の損害が発生したところ、前記四における認定の過失割合を適用すると、被告らの負担すべき損害額は、一一九、七四九円であるのに、すでに原告側は、被告会社から八〇〇、八九〇円の填補を受けていることになる。

従つて、治療費等の損害として、被告らの賠償すべき金額は、消滅し、残存していない。

2 慰藉料については、前記八〇〇、八九〇円が治療費等として支払われていて、慰藉料に充当されたものがあることを認めるに足る証拠はないから、被告らの支払うべき損害金としては、五の2のイの原告明俊に対する慰藉料五〇、〇〇〇円のみということになる。

3 弁護士費用については、右請求認容額、すでに被告らの支払つた治療費等の額その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、これを本件事故と相当因果関係のある原告英二郎の損害と認めることはできない。

七、結局、本訴請求は、そのうち原告明俊が被告らに対し連帯して慰藉料五〇、〇〇〇円およびこれに対する不法行為の同四三年三月五日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は正当と認められるから、この限度でこれを認容し、その余および原告英二郎、同孝子の請求は、理由がないことになるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条但書、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 木村輝武)

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